2016年5月24日

五嶋みどり「夏の名残の薔薇」変奏曲の離れ技


五嶋みどり「夏の名残の薔薇」変奏曲(カーネギーホール1990年10月21日)

Midori Live at Carnegie Hall (SK-46742)
五嶋みどりの「バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第1番&第2番」を最近購入した。第2番は驚異的難曲として知られているそうである。これで彼女のCDは何枚になっただろうか。ジャンル、曲目、作詞作曲者、演奏家といった具合に、レコードの選び方はいろいろある。ジャンルでいえばブルーグラス音楽など「アメリカンルーツ」に高校以来付き合ってきたが、特定の演奏家に対するこだわりはなく、広く浅く蒐集を続けている。日本のポップスでは一時、大貫妙子に心酔しCDを集めたが、今は若干熱が冷めている。五嶋みどりの名を知ったのは、レナード・バーンスタイン指揮の『セレナード』で共演した際、E線を2度も切りながら、素早くヴァイオリンを換え、演奏を完遂した「タングルウッドの奇跡」の記事を読んだ1986年だった。ただその時は「14歳の天才少女」という印象だけで、それ以上の興味を持たなかった。ところがその後なにげなく購入した「カーネギーホールでのライブ」の中の、エルンスト「夏の名残の薔薇(庭の千草)」変奏曲を聴いて衝撃を受けたのである。弓でアルペジオを弾きながら、ピッツィカートで主旋律を弾くという、まさに神技ともいえる離れ業をやすやすと遣って退けているのである。クラッシック音楽の演奏家は他人が作った曲を再現しているに過ぎない、という極端な揶揄があるが、彼女は曲が作られた時代や文化を調べ尽くし解釈に思いを巡らせ、かつて何千回も演奏したことのある楽曲でも、まるで初めて挑むかのように、練習を怠ることはないそうである。つまりそれは、作曲者へのトリビュート、あるいは時空を超えたコラボレーションかもしれない。ホテルは全てビジネスホテル、移動は全て公共交通機関、という舛添東京都知事に聞かせてあげたい、世界最高峰の演奏家らしくない質素な生活にも好感が持てる。うつ病と拒食症を克服、悩みながらヴァイオリニストとして生きることを決意した、その軌跡も感動的である。一度、生の演奏を聴いてみたい。

  五嶋みどり「タングルウッドの奇跡」(マサチューセッツ州 1986年7月27日)

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