2017年6月27日

ザラ紙に印刷された写真の迫力

土門拳写真集『筑豊のこどもたち』(パトリア書店1960年)

書棚を整理していたら土門拳写真集『筑豊のこどもたち』が出てきた。1960年、パトリア書店が発行したもので、定価が僅か100円だった。当時の週刊朝日の定価が30円、その3冊分という安さだった。この価格を可能にしたのは、ザラ紙に凸版印刷だったからである。私はまだ高校生だったが、写真愛好家ばかりではなく、広く一般に売れ、大ベストセラーになったことを憶えている。無論当時でも上質紙にグラビア印刷は可能だったが、敢えて価格を低くするためだったようだ。土門もあとがきで「この体裁の本になったのは、まず百円という定価に押さえた〔ママ〕ぼくの責任である」と書いている。こんな本が出てきたとネットで紹介したところ「1977年版なら持っている」というコメントがいくつかあった。調べ直したところ1977年、築地書館から再版されたようだ。ダブルトーン印刷、ハードカバーで、2700円だそうである。いまさらザラ紙に凸版印刷という復刻は無理なのだろうけど、ちょっと考えさせられるものがある。2008年、京都国立近代美術館で開催されたユージン・スミスの写真展を観に行ったが、会場に展示されていた古い LIFE 誌に釘付けとなってしまった。彼の暗室作業をほんの少し手伝った経験があるのでよく知っているが、芸術家肌で、ファインプリントを志向する写真家だった。従って綺麗な作品が並んでいたのだが、何故かザラ紙に印刷された写真のほうに迫力を感じたのである。報道写真は多くの人の目に晒されてこそ意味がある。だから大衆的な媒体が相応しいし、タブロー化は避けたほうが良いのではないだろうか。フトそういう思いが脳裡を走るのである。

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